カテゴリ:novel( 10 )

ひと夏の経験値




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 舞台は90年代前半。テーブルトークRPGに耽溺するオタク高校生軍団の前に現れた一人の美少女!
 ファンタジー世界に現実逃避を続ける少年たちのハートが鷲づかみにされたそのとき、彼等の中で「何か」が変わり始める……。
 TRPG誌「ロール&ロール」に連載され、賛否両論を呼んだ傑作サークルクラッシュ(未満)小説をレビューします!



e0076213_119262.gif とにかく懐かしい~。私も高校のころは友達に誘われて、テーブルトークRPGにハマっていました。他はみんなオトコノコばっかりだったけど、みんな私に優しくしてくれて、とっても楽しかった想い出があります。でも、この本に書いてあることが本当だとすると、もししかたらあの頃一緒に遊んでいたオトコノコって、私のこと好きだったのかもしれない……とか思っちゃいました。でも、誰も告白してくれなかったのはどうしてなんだろう。告白されたらされたで、ちょっと困っちゃったと思うんですけどね。あー、私もまた、ちやほやされたいなあ。
(9点) ★★★★★ ★★★★



e0076213_1192095.gif 恋愛に対して臆病で不器用な「草食動物」な少年たちの青春物語。こっぱずかしくてカッコ悪い青春だからこその楽しさが嫌味なく描かれていてけっこう胸キュン。ただオチがちょっとヌルいよなあ。多少苦い結末であった方が、その不毛な輝かしさがより際立ったのではないかと思う。あと、現実の自分の行動に対してはあれほど自覚的な主人公が、ゲームマスターとしての自分の心理にはなぜあれほど無自覚なのかが疑問。そこをもう少し突っ込んでいれば、90年代初頭のTRPGシーンという舞台設定にも、ノスタルジー以上の意味を持たせられたのではないだろうか。
(4点) ★★★★



e0076213_119461.gif 90年代前半が舞台のテーブルトークRPGサークルに所属する高校生の青春譚。男ばっかりでゲームやってたトコにかわいい女の子が参加することでっていう展開なんだけど、当初予想していた方にはあまり行かず思ったよりいい話で最後はちょっと拍子抜けしたけど青春モノとして秀作。スポーツをする同級生の男子生徒を見て、俺達だって青春してるんだって突っ張るトコは『さくらの唄』を思い出した。主人公の男の子には共感したけど、あれは悪い方に転がる可能性の方がデカイんだよなぁ。あとは一人の男の子が脱オタする展開が泣けた。思春期の男の子の痛くてかわいい部分が刻みこまれた作品だと思う。
(7点) ★★★★★ ★★



e0076213_1110224.gif テーブルトークRPGの類はまったく興味が沸かず、一度も経験していない私でも十二分に楽しめたのは、やはりサークルクラッシャー小説としての完成度の高さだろう。「いい人」であるが故にオタクの遊びにつきあってあげる女子の善意が、ピュアな童貞男子たちをドキマキさせる過程の描写が素晴らしい。脱オタに走る人間への僻み根性や、「告白」なんて思いもよらないウブさ加減といい、あざとい戯画化が空回りがちだった『ヨイコノミライ』よりも、本作の方がぐっとリアルで深く、しかも愛情に溢れている。この世に不器用な童貞男子よりカワイイものはないのだ! ただ、もう少し悪意があればぐっと面白くなったはずで、そこが残念ではある。モテない恨みをネット恋愛論パフォーマンスにぶつけているタイプの人にもオススメ。
(6点) ★★★★★ ★
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by wakusei2ndnews | 2006-11-03 11:10 | novel

少女七竈と七人の可愛そうな大人


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 淫乱な母親を持ったがために、数奇な運命に翻弄される少女・七竈。ライトノベル界の林真理子にしてお姫様・桜庭一樹がリリカルかつファンタジックな文体で贈る話題の新作をレビューします。



e0076213_233198.gif もしかしてこの兄妹(姉弟?)って、いけないことしちゃうのかも……と思って、ドキドキしながらページをめくっていたのですけど、普通に(そして綺麗に)終わっていって安心しました。最初から色んな男の人と関係を持つ女の人の話から入っていったので、七竈ちゃんの未来を心配していたのですけど、考えすぎだったみたいです。それにしても、大人になるって何かを失うことなんですね。うう、悲しい……。でも、この小説はそんな悲しさの中に宿る美しさがとっても素敵な小説です! う~ん、これが文学って感じですか? なんかウットリしちゃいます。まだ若いのにこんな小説書いちゃうなんて、桜庭一樹さんってすごいんですねぇ。
★★★★★ ★★★★ (9点)



e0076213_23315151.gif 少女で半身としての少年で女の性で報われない悲恋で成長物語で感傷的でエセ古風な少女小説風の文体で、とまあ、目立って言及されやすい点を列挙すると、毎回とは言えそのあざとさにうんざりする。幼年時代の比喩としての鉄道模型なんかも分り易すぎ。ただし、個々の要素を取り上げて着目すると詰まらないのだけど、シンプルな成長物語の構図の周囲に「可愛そうな」大人たちを配し、書割めいたミニマルな文体で人形劇の様にキッチュに仕立てた雰囲気で、作品総体としては器用にまとまっている。先輩後輩の掛け合いや、いんらんの母とビショップの乾いた語りも良い味を出してて小説として楽しい。作家として成熟した桜庭一樹が窺える作品。
★★★★★ ★★ (7点)



e0076213_2332586.gif 序章の「辻斬りのように」を「野生時代」で読んだときは、これでは、本人の過去の著作の焼き直しというかその続きが読みたいだけではないか、と怒りを覚えた。ただ、単行本で読むと、桜庭が一貫して追い続ける、「少女と少女を取り巻くセカイ」というテーマは不変だし、いちいち視点を少しづつズらして行く描写はさすがに巧みなので、なるほど、それなりの読後感は残るように出来ている。桜庭という作家の初物買いにはうってつけかも知れぬ。しかし、本人のキャラの問題なのか、世間との接触を極力抑えようとする少女の純血主義ぶりがまだ少し鼻につく。少女・七竈が母と同じ道をたどる過程を描けるかが作家・桜庭一樹の分岐点のような気がする。
★★★★★ ★ (6点)



e0076213_23323832.gif 『ブルースカイ』が「昔の日本SF+5年前に流行ったセカイ系気分」なら今回は「古風な少女小説の装いで小奇麗にまとめました」って感じ。「なんだって勉強すれば器用に書けますよ」という自己主張をしたがる所といい、実際にそれができてしまう所といい、一般文芸に本格進出すれば姫野カオルコより早く林真理子になれるかもしれない(笑)。それは同時に内容が簡単に因数分解できてしまうつまらなさがあるということでもある。そして、現時点での桜庭の市場はこのような因数分解をありがたがるヌルい場所だということなのだろう。作者の器用さが得がたいものであることは間違いないのだが、「ライトノベルからの背伸び組」のために設計されたことが丸わかりの「あざとさ」「安っぽさ」はどうしても弱点になってしまう。
★★★★★ (5点)
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by wakusei2ndnews | 2006-07-18 23:32 | novel

永遠のフローズンチョコレート


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 (『多重人格探偵サイコ』を真に受けたような)連続殺人を続けるヒロインと、無気力で厭世的な(のがカッコイイと思っている)ボーイフレンド基樹。ふたりの無駄に気取った倦怠期に不死身の体を持つ少女・美和が現れて……。「えんため大賞」受賞作家、扇智史が思い入れたっぷりに語る話題作『永遠のフローズンチョコレート』を徹底レビューします!


e0076213_22303568.gif「あたしたちが何を望んでも――世界は世界の都合でしか動かない」……うまく言えないけれど、私たちの90年代ってずっとこんな感じの気分でした。とにかく世の中が絶望的に思えて、でもそれが巧く表現できなくて、苦笑するしかなかったんです。あれから10年、なんだか今の世の中は雑閥としているというか、割り切りすぎている感じがしますよね。でも、本当に人の痛みがわかるのは、この小説に共感できる特別に繊細な人なんだと思います。あの頃に青春を送った人にだけわかる、私たちの世代の宝物みたいな作品ですね。とにかく懐かしいです。それにしてもあの頃、私ってなんであんなに絶望してたのかなあ。
★★★★★ ★★★★★ (10点)


e0076213_22273742.gif  非常に評価の難しい作品。なぜ理保は人を殺すのか、その自明とされている動機やら不安やら危機やらが(90年代ならいざ知らず)現在では見えにくい。彼女は内面の言語化を拒み「気分」を強調するが、それを今の読者が共有するのは難しいだろう。しかし、実和という漫画・アニメ的な「虚構」を虐殺し、「いつの日にか不死人になる」というロマンを冷蔵庫の奥底に保留しながら、破滅へと続く日常に回帰するストイシズムは、虚構に溺れる凡百のラノベとは一線を画す。ここで描かれているのは「酒鬼薔薇聖斗」になることを拒絶した殺人鬼の青春だ(もっともそれにリアリティがあるかは別問題だが)。もうひとつの難点は、読んでいてひどく退屈なところ。まるで文藝あたりに載ってるブンガクのように。
★★★★★ ★ (6点)


e0076213_22285360.gif 「世の中なんてくだらない」とか言いつつ、一丁前に「寂しさ」だけは主張するという、イマドキの青春小説。しかも主人公の女子高生はお約束のメンヘル。こーゆーのを読むと生きる力が減ってる奴が増えてきてるんだなと思う。気持ちは分かるけど、「だから?」という読後感しか残らないのが致命的。それなりの終り方ではあるけれども、存在理由を「あそこ」に求めてるラストも弱い。「私は不幸」ということを再確認したい人たち、もしくは「不幸」であることを肯定されたい人たちのための小説なんだろうけど、そこから生まれるものはより強大な不幸でしかないことに気がつかないと。技巧の話をすれば、文体は平坦で特筆すべきものはなし。ありきたりの設定と会話の連続は正直言えば精読に耐えない。「桜庭一樹すら難しくて読めない」人が読めばいいのでは。
★★★ (3点)


e0076213_22291422.gif「終わりなき日常」のキツさを「僕らはこんな世界のつまらなさ(絶望)を知っているんだよ」という「乾いた暗さ」で表明することでウットリとナルシシズムに浸って回避……。これが90年代末に「頭が悪いけどなんとかカッコつけたい層」に一番流行ったキャラ売りで、本作もまたそんな「気分」をほぼ的確に捉えている時代遅れ作品。3年前にファウストに書きたかったんだろうけどね(笑)。本作に共感できる=頭の中身がまだ90年代のアレな人ってことなのでリトマス試験紙としては極めて有効。こういう絶望ゴッコで震えられている人は、一生絶望も希望も関係ないので安心して生きてください。陳腐さに自覚的な分、谷川流の方が問題理解も深く、こういった「キブン」を逆手に取って巧く娯楽作の構築に生かしているのがよくわかる。
★★★ (3点)
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by wakusei2ndnews | 2006-05-22 22:29 | novel

りはめより100倍恐ろしい

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 最近とっても心のこもった「ライトノベル特集」で心ある読者の関心を色んな意味で買い占めている角川「野生時代」。その切り札たる「青春小説大賞」第1回受賞作はなんと現役中学生が「ケータイ」で書いた作品だからというから驚きだ!
 中学時代、グループで「いじられて」いた羽柴少年。人気者には違いないが、はっきり言ってキツイ毎日を過ごすことになる「いじられキャラ」を脱出するために、高校バスケ部で権謀術数を用いていく……。
 果たして羽柴少年はいじ「め」よりもある意味恐ろしいいじ「り」から逃れられるのか!?
 
 角川「野生時代」が送り出す「新時代の青春文学」を徹底レビューします!



e0076213_22251353.gif 文学ってなんだか重くて暗くて、私には分からないような難しいことを考えているようなイメージだったんですけど、最近の10代のみなさんが書いた小説はどれもわかりやすいし、扱っているテーマも身近でとっても共感できるものばかりです。綿矢りさちゃんの『蹴りたい背中』でもちょっと難しかった私ですが、この作品は男の子たちの会話が楽しくて一気に読んじゃいました。あと高校時代のクラスのことなんか思い出せて、すっごくリアルでした。なんでみんな、私とお弁当食べてくれなかったんだろうなあ……とか、ちょっと凹みました。それにしてもこんな小説を中学生がケータイで書いちゃうなんて、さすが21世紀ですね!
★★★★★ ★★★★ (9点)


e0076213_22254434.gif 賞の候補作になった時に読んでダントツにコレが面白かったので受賞は納特だが、いざ出版され同じような河出系の作品と比較するとどうしても出遅れた感を感じてしまう。 仮にこの手のジャンルをスクールサバイバル文学と呼ぶなら、中高生が今感じているだろう小さな人間関係のキツさ、「いじり」というヌルい地獄の描写は秀逸で読ませるのだけど、そういう現状認識から一歩出ようという意識がある平成マシンガンズに心情的に軍配をあげたくなる。 まぁ、深く考えないでマンガの稲中や幕張のノリで楽しんでもそれなりに楽しめるんだけど少なくとも新しくはない。 それにしてもこの手の作品を書く若い子がどんどん増えてこのジャンル自体がチープ化するんだろうなぁと思うと暗鬱になる。
★★★★★ (5点)


e0076213_2226263.gif ここで描かれている「厄介さ」というのは、どこにでもある凡庸な、にもかかわらず極めて悲惨な類のものである。集団が安定するためのスケープゴートとして「いじられ役」が要請され、そこから逃れるために弱者同士の蹴落としあいが繰り広げられる。その打算と勘繰りのパワーゲームの勝者を目指しながらも、どこか甘さの残る主人公は、この年頃の男子の実像としては実にリアルだなあ、と10年前の自分を鑑みて思ったり。ただ、せっかく抜け出たと思ったいじり・いじられの因果律に、再び引き戻す結末には不満。そこから外へ出るのはそう難しいことじゃない。そんな貧しい関係性が場を支配するのは、結局自分たちが幼稚だからってことに気付こうよ。
★★★★★ ★★ (7点)


e0076213_2226212.gif 見事なまでに一昨年の文藝賞「野ブタ。(原作)」の変奏。中高生の陰惨な人間関係(キャラの立てあい)をコメディ調に仕上げる手法が完全に同じで、主人公が逆転負けするオチまで同じ。「いじり」というアイデアは面白かったのに、後半「いじめ」と変わらなくなるのもダメ。適度にリアルな描写は悪くないけど、言語センスで三並夏に負けている。要するに野生時代は河出「文藝」路線で行きたいってことなんだろうけど、そもそも河出スクールカースト系小説ってパクる価値のあるほどもの? 白岩玄にせよ、この作者にせよ、等身大の日常から逃げずに向き合うのは立派だけど、「半径3mの人間関係を1段階メタ視」できた程度で満足するなよ。そこはあくまで出発点。まだまだ意地悪さが足りないなあ。
★★★★ (4点)
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by wakusei2ndnews | 2006-03-22 22:26 | novel

平成マシンガンズ


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 今年も発動、河出文藝賞メソッド! 選考委員が口を揃えて「15歳だから受賞させたんじゃない」と説明した三並夏『平成マシンガンズ』。現役女子中学生の、実力はいかに!?
 

e0076213_20563265.gif 綿矢りさちゃんに続く天才がついに登場です! 私も、中学や高校の頃はクラスのすみの方で、グループの人間関係のことばかり考えていました。あの頃って本当に生きている世界が狭くて、息苦しくて……この作品はそんな頃のことを思い出させてくれます。か弱い女の子が世の中のことをシビアに捉えた上で強く生きていこうとするところとか、「夢の中に出てくるマシンガン」って発想とか、私の大好きな桜庭一樹さんみたいでとっても共感できます。きっと次の作品や、次の次の作品だとこの厳しい世界で具体的にどうやって生きていくのかが描かれるんじゃないかなあと思うので今からドキドキです。
★★★★★ ★★★★★ (10点)


e0076213_20571267.gif 文体も話も決して突出してるとは思わないしラストも唐突な感は確かにある。15歳という年齢だっていず14,13歳の新人が出てきて追い抜かれるだろう、でもここまで切実な、今書かざるおえなかったという切実感が漂う作品というのはめったに出会えないし仮にこの作者がスキルを上げていったとしても、もうこういう作品は書けないと思う。その意味で大変貴重で結論を言うとコレは知識も経験も未熟な15歳の女の子が未熟なりに生きていくために考え出した思想書だと思う。他者に依存しない承認を求めない、まず強くなり自分を取り巻く環境について知りマシンガンを向ける相手について考えようという出発点は凛としていてカッコいい。だから評価する。
★★★★★ ★★★★★ (10点)


e0076213_20573391.gif 15歳という作者の年齢抜きには読めないわけですが、若者の「瑞々しい感性」を評価するか、「世界の狭さ」を批判するかと言われれば、後者寄りかな。いじめ、登校拒否、義母との不仲、父親との冷えた関係、実母からの拒絶。自分にとっては悲劇であっても、それらは世界中で起きているありふれた事件である、という透徹した認識に至ることで主人公は前に進む。けれど、それは開けているようでいて狭い、ただの諦念なのではないでしょうか。なにより、15歳でこんな小説を書けてしまうのは悲しいことだ。現役中学生ならもっと青臭く拘泥し続けようよ、あらゆることにさあ!
★★★★ (4点)


e0076213_20575624.gif 一昨年出ていれば褒められたのに。このタイミングで出てきても『蹴りたい背中』『野ブタ。をプロデュース』と続いた河出スクールカースト系の最後尾にしかならない。類似品量産するとジャンルごと陳腐化するからやめようよ(笑)。まあ、出来自体は悪くなくて、文章もややあざといが達者。安易に和解や恋愛を持ち込まない自己抑制も効いている。けれど、ラストに主人公の少女がたどり着く諦念は前提のそのまた前提。今更「平坦な戦場にようこそ」みたいなこと言われてもねぇ(笑)。15歳という年齢を考えてもこれは射程が短い。これが連ドラの第1話だったらいいんだけど、ここで終りなんでしょ? このマシンガンじゃ豆鉄砲くらいの威力しかない。砂糖菓子よりは効くけど。
★★★★★ (5点)
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by wakusei2ndnews | 2005-12-20 20:58 | novel

バスジャック

 
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 デビュー作『となり町戦争』で一世を風靡した三崎亜紀の第2作は全7編の短編集!
 レビュアー陣の評価はいかに?


e0076213_2122797.gif なんか乙一さんみたいだなあ、というのが第一印象です。乙一さんの本ほどには泣けませんでしたけど、どのお話も「よくこんなこと思いつくなあ」って感心しちゃうような不思議なお話ばかりで、夢中で読み通してしまいました。私が感動したのは、「私の頭の中の消しゴム」みたいな切ない恋物語『二人の記憶』と、最後の『』です。特に『』は最後に車椅子の男の子を「送る」ところで泣いちゃいました。『バスジャック』ってタイトルはなんか怖そうですけど、どちらかと言えばゾクゾクするんじゃなくて安心できる作品です。
★★★★★ ★★★(8点)


e0076213_2122212.gif 前作、となり町戦争を読んでて面白かったのは、一つのシステムとして戦争を描いていた点だ。この人は役所に勤めていた経験からだろうか?自分たちの感情とは別にいつの間にか動いているシステム、環境にとても敏感で、その不可視なものに対する意識がそのまま作品に表れる。この短編集でもそれは健在で見えないものとどう対峙するかがテーマの人なのだろうと思う。読んでて感じるのは諸星大二郎+村上春樹。諸星的な部分が強く出てるバスジャックと動物園は傑作、得に動物園は小説でしかできない作品だと思う。逆に春樹テイストのギャルゲー臭い「送りの夏」はイマイチ、辻仁成レベルで甘々。でもその両立が人気の源なんだろうなぁ。
★★★★★ ★★ (7点 )


e0076213_21224112.gif『となり町戦争』の悪い意味での青臭さと春樹臭にはがっかりさせられたが、この人のアイデア勝負的なところは明らかに短編向き。一人称のベタなナルシズムも短編であることによって軽減され、口当たりが良くなっている。古い例えでアレだが、爽やかな『世にも奇妙な物語』と言った体裁の物語は、気がつきそうで誰も気がつかないアイデア(ネタ)が安定した一人称の語り(ベタ)で調理されることによって、誰もが安心して読める作品に仕上がっていると思う。しかしその分食い足りないのも事実で、個人的には、表題作の『バスジャック』のネタからベタへの快楽なんかは、爽やかなバトロワ風味の長編にしたら売れると思うけど筆力的に無理かなあ。
★★★★★ ★ (6点)


e0076213_21225872.gif『となり町戦争』がヒットしたのはセカイ系的な問題意識をオタクの想像力から切り離したところで展開したのと、まさに「田舎公務員が無駄に文化系」センス全開の(いい意味での)青臭さがあったからだと思う。で、この短編集だけど、つまらなくはないが褒めるほどじゃないアイデアがずらりと並んで、それなりに読めるけど驚いたり揺さぶられたりは絶対しない一冊。手堅い出来ではあるんだけど、三崎にこれを期待している人がどれだけいることか。お勧めは「負け犬」寸前の女性を主役に据えた『動物園』。この話は「見られる」自意識の問題というテーマを「変身」というメタファーで展開したのが(ありがちだが)面白い。
★★★★★ (5点)
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by wakusei2ndnews | 2005-12-09 21:23 | novel

ニート

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 駆け出し負け犬女性作家と、ニート青年との淡い関係を描く表題作。大阪の彼女と名古屋の育ての母との間で揺れる東京のホテルマンを描いた「へたれ」他全5編の短編集。高学歴バブル就職→ドロップアウトという経歴をもつ作家・絲山秋子の最新作。芥川賞に3度、直木賞に1度振られた彼女。これで逆襲なるか!?



e0076213_20102713.gif 絲山秋子さんってどんな人なんだろうっていっつも想像するんです。きっと本当は頭が良くて、敏感な人なんだけど、敏感すぎて辛い恋をしたり、心を病んでしまったりして社会からこぼれおちちゃった人だと思うんです。私は絶対にこういう生き方は出来ないけど、こういう人生を歩んでいる人じゃないと書けない独特の雰囲気がとっても文学っぽくて私は大好きです。誤解しないでくださいね、私はちゃんと働かないといけないって思っている人だし、こういう恋ってお互いを傷つけるだけだと思うんですけど……。でもこういうちょっと不道徳なのがやっぱり文学っぽくていいんですよね!
★★★★★ ★★ (7点)
 
 
e0076213_2010546.gif えー、女性版「キミと私」で、負け犬女がニートにダメ萌えする話。萌えるのは一向に構わないが、それ以上に文芸としての面白さに欠ける。文体も淡々としていると言うよりは単に味気が無く、全体的にパフォーマティヴな面白さの域を出ない。低所得層の行き詰った恋愛と言う意味では、本書に描かれる状況は政治的には正しいのかもしれないが、自己の弱さ、反社会性をダメ男に転化し、それを恋愛やら行き場の無い切ない気持ちやらのオブラートで包み込んで高尚なものに仕立て上げる心理は、泣きゲーで可哀想な女の子萌えしているエロゲーマーのメンタリティと何ら変わらない。個人的にはbookoffで叩き売られてても買うかどうか怪しいところ。
★★★(3点)


e0076213_20111535.gif 一貫してニート的な男性との恋愛を題材にしてきた絲山秋子だが、そろそろ作家としての転換期を迎えている模様。弱くて優しいダメ男との交流が、今作では初めてゆるやかに破綻している。『ニート』の「先のことはわからないし、恋人や夫婦の関係でもないけど、アンタの面倒くらい私が見てあげるわよ」というエンディング、これまでの絲山作品にも共通する母性の決意が、続編の『2+1』では完全に挫けて終わっている。その後で、なお友達以上・恋人未満の繋がりに希望を見出せるのか。……セックス無しのヌルい男女関係に見切りをつけた結果が、スカトロプレイ(『愛なんかいらねー』)だったりして(笑)。次回作が楽しみだなあ。
★★★★★ ★★★  (8点)


e0076213_20113434.gif どんどん自己模倣に陥っているイト山が例によって芸のない「だめんず萌え」&「ドロップアウトした私が好き」を展開(笑)。デビュー作の『イッツ・オンリー・トーク』の微妙な倦怠感からどんどん単純化&後退しているのにそこそこの位置に収まりそうになっているのは「だめんず萌え」メンヘル負け犬キャラで売り出したイト山に文壇中年が萌えているのと、そんなイト山に憧れちゃうカワイソーな女子がそれなりの数いるってことなんだろうけど、いい加減誰か言ってあげたら? まあ、『だめんずウォーカー』に出るほどにはモテない負け犬女子も、こういうキャラ売りでいけば浅田彰まで褒めてくれるんだから、狙ってやっているであろうイト山女史は大したものなのかも。
★★★ (3点)
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by wakusei2ndnews | 2005-12-01 20:11 | novel

スラムオンライン

 
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 ネットゲーム中毒の主人公が、大学でメガネ不思議ちゃんをゲット!
 『よくわかる現代魔法』の桜坂洋が放つSF青春『スラムオンライン』を取り上げました!



e0076213_23263870.gif なんだか大学の頃を思い出して、切なくなっちゃいました。大学一年生の頃、仲が良かったオトコノコに私もよくノートを見せてあげたりしていました。結構趣味も似ていて、ゲームの話をしていました。ときどき、大学の外でご飯食べようって誘われていたけど、もしかして私にちょっとドキドキしてくれていたのかも……なんて思っちゃいました。結局、その人はいつの間にか大学に来なくなって、部屋でネットゲームばかりしているって噂がありました。だからネットゲームってちょっと暗い世界なのかなあって思ってたんですけど、本当は奥が深くて哲学的な世界だったんですね! ちょっぴり再発見です。
★★★★★ ★★★(8点)


e0076213_23304230.gif ゲーマー小説としての問題意識は正鵠を射ている。バーチャルな自己実現の可能性と限界、そしてリアルな他者からの承認の必要性。しかしその二つをうまく接続できていない。カノジョに認めてもらうことだけが戦う理由というのでは「ゲームをやるためにゲームをやっていた」という独白と矛盾しているし、坂上悦郎がパクのプレイヤーと相容れない理由も不明確だ。テツオとしての自己実現が坂上悦郎にフィードバックされ、坂上悦郎としての承認がテツオの戦う理由となるためには、もう一歩の踏み込みが必要だった。そのあたりをクリアにした上でもう一度このテーマに挑戦すれば、かなり面白い小説になるのではないかと思う。
★★★★★ ★ (6点)


e0076213_2327222.gif「俺より強い奴に逢いに行く」を地で行くネトゲ廃人の話なんだけど、現実側の恋愛パートがイタすぎるのが致命的。「幸せの青い猫」を探す不思議ちゃんと大学の講義で知り合ってゲーセンデート、途中DQNと乱闘して介抱されてるうちに終電逃すって……オタクが妄想する恋愛フラグそのまんまじゃん。おかげでリアルとバーチャルの狭間での煩悶にも切実さが感じられないし、終盤の自己発見もなんだかただの開き直りみたい。リアルの嘘臭さとバーチャルの現実感の対比という目線もありきたりで、オタクの実存小説としてもゲーム小説としても中途半端な出来。前作『All You~』が秀作だっただけに、なおさら不完全燃焼の感が強い。残念。
★★★★ (4点)


e0076213_23275741.gif ハッキリ言ってオタク向けの「失楽園」(もち渡辺淳一の)。要約すると「ゲームの世界で人生哲学を学んだ俺の魅力に、ベタボレしてくれる彼女とめぐりあいました」という話で、ダメオタの妄想を何の批評意識もなく(作者はありまくりのつもりなんだろうけど)紙に焼き付けただけの小説。東浩紀も他に褒めるものがないからって、コレはないでしょうに。まあ、夫人がモデルだって噂だし、恋愛パートだけならまだ受験生向けのドリームノートとして微笑ましく読めなくもないが、終盤の底の浅すぎる人生論だか仮想現実論だかはマジにゲンナリ。力はある人なんだから、こういうのは周囲の人が止めてあげないと。
★★★  (3点)
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by wakusei2ndnews | 2005-10-30 23:29 | novel

サマー/タイム/トラベラー

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『蓬莱学園』の新城カズマが「宇宙戦争や銀河帝国もない、完璧な空想科学小説」と銘打って放った話題作。田舎町の優等生が集まってつくった男女混合のSFファングループ(笑)で、ある日メンバーのひとり(不思議ちゃん美少女)が時間跳躍能力を身につける。喜び勇んで能力の分析に乗り出すメンバーたちだったが、事態は予想外の方向へと転がっていくのだった……。

 凝った構成と鮮やかな仕掛けを絶賛する声の一方で、ペダンティックでオタク趣味丸出しのキャラ設定に賛否両論が渦巻いた本作を、遅ればせながらレビューします。


 
e0076213_1195846.gif 感動しました! こういうこと告白するの恥ずかしいけど、私、高校の頃はずっと悠有ちゃんみたいなことを考えていました。アニメ研究会にはSFと自転車が好きなオトコノコがいて、政治のこととか哲学のことにも詳しくて、とっても尊敬していました。私の悩みをいつも真剣に聞いてくれて……。少し斜めに構えていたけど、心の暖かい人だったと思います。結局、アニ研はそんな私の友達のオトコノコ同士がケンカしちゃって誰も部室にこなくなっちゃったんですけど、そんな苦い思いでも一緒に包んで未来へ運んでくれるような、素敵な作品だと思います。最後の悠有ちゃんの旅立ちには、本当に勇気づけられました。お勧めの大傑作です!
★★★★★ ★★★★★ (10点)

e0076213_1193788.gif 正直言って、あんましよく分からんかった。俺もかつては田舎で鬱屈を持て余す優等生(笑)だったのでそのあたりの空気はよく分かるんだが、ペダンティックに言及される作品の数々はほとんど読んだことがないし、タイムトラベルというネタにもこれといった思い入れがないので、なんかね。
 しかしこの物語って、SFである必要はあんまりなかったんじゃないかという気がする。別にSFがSFでしか描けない物語しか描いちゃいけないとは思わないし、そもそもハヤカワなんだからSFじゃないと困るんだろうけど、SFでなければ俺にも少しは理解できたんじゃないか。よく分かんないけど。
★★★★ (4点)

e0076213_1192289.gif 一言で言うと、天然不思議ちゃんを取り巻く天才病の田舎系少年少女達の妄想譚(天才病については松浦理英子『セバスチャン』を参照)細部描写は凝っているが、一方で高偏差値ならではのメタ視の虚勢と、甘ったるい挫折と、少女に希望を託す過程を回顧する構図とが「宇宙戦争や銀河帝国もない、完璧な空想科学小説」と言う帯の惹句に反して、それら「大状況」的なセカイ系作品と全くの同類に見えてしまうのは気のせいだろうか。SFと言うフォーマットが青春物語と親和性が高いのは分かるけど、精神的オナニーのカタルシスと、センスオブワンダーを混同されても困るだけ。オナニーしすぎてると、バカになっちゃうよ!(笑)
★★★★ (4点)

e0076213_1185811.gif SFというのは今や社会主義のようなもので、だとするとハヤカワはキューバだ。「もとSF好きの田舎優等生」として、主人公達の激イタい勘違いぶりのリアルさは認めるが、オチが不思議ちゃん(しかも名前は「悠有」……笑!)のイノセンスって辺りが本当にどうしようもない。虚勢を張ったところで、SFファンダムがスノッブとロリコンのるつぼだってことを再確認させてくれる作品。こういうオッサンたちの楽園(キューバ)は大切にしてあげないといけないと思わなくもないけどね(笑)。上の世代に媚びてるのか、このオタ臭く甘ったるいスノビズムの救済にしびれてんのか知らないけど、「これを褒めなきゃ」みたいな空気が若い層にまであるのが情けない。キューバってカストロ死んだらどうなると思ってんの?
★★★★★ (5点)
 
 
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by wakusei2ndnews | 2005-10-22 11:12 | novel

AMEBIC

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 さあ私の太陽神よ、舞い上がれ。安宿に泊まる私を照らせ。「ああ寂しいああ悲しいふふ一人だ私は」 作家のパソコンに残された錯文。孤独と分裂の果てに、「私」は、それを「彼」に伝えようとするが……。

と、いうことで金原ひとみの第3作『AMEBIC』。美少女作家大好きのレビュアー陣の評価はいかに?


e0076213_15271719.gif 金原さんの作品って、なんだか壊れた人ばかりが出て来るイヤなお話ばっかりなんですけど、そんな雰囲気をどこかぽーんと突き放すようなところがあって、読んだ後は何故か不快にならないんです。この『AMEBIC』の主人公は、金原さん自身がモデルっぽい若い女の作家さんなんですけど、この人の変な行動を見ているととっても気持ちいいいんです。なぜか、この人みたいにどろどろ・ぐちゃぐちゃしている人の方が自然体で好感がもてて、途中出てて来るまともな人たちの方がなんだか不気味に見えてくるから不思議です。孤独な女の子の切なさが、読んでいてきりきりと伝わってきます。
★★★★★ ★★★ (8点)


e0076213_15273718.gif 宣伝用の本人の痩せたグラビア写真で、まず+1.まぁアッシュベイビーよりは下がるけど面白かった。楽
しみ所は躁鬱激しい自意識のジェットコースターに乗ってるようなドライブ感。特に感情が盛り上がった後、萎えてく瞬間(理解不能だから唯一無二だったはずの錯乱文が編集者にあっさり解説されてしまう所)が痛気持ちいい。多分この人が書きたいのは「特別な私を志向する凡庸な私の恥ずかしさ」で、それが自身の状況へのの自己言及になっていて自分がどう消費されてるかよく分かってるなぁと思う。だから次回作には本人のグラビアを10ページくらいつけてほしい。そこまでやった時 、金原ひとみという文壇アイドルは完成する!
★★★★★ ★ (6点)


e0076213_15275399.gif 身体性の欠如、分裂、自己自身からの疎外と言うテーマ、"錯文"や無記名な日常と言った手法それ自体が、特に目新しくも無ければ面白くも無いことは置くとして、金原ひとみ氏のデビュー3作目はそれなりに面白いと思う。『蛇とピアス』にあったブンガク好きのオッサンへの媚めいた、サブカル馬鹿っぽい作り物の生臭さは消え、逆に作り物そのものと言った、金原自身を思わせる小説家の隙間の多い日常と、異様なテンションの"錯文"のコントラストが、自己からの乖離を際立たせる。恋人への想いが断ち切れるように消え去ってしまうラストの呆然とした感覚は、セカイ系なんかよりも全然切なくて泣かせると思う。☆の数は今後への期待も込めて。
★★★★★ ★★★ (8点)


e0076213_15281069.gif 金原ひとみを一言でいうと「狂気に憧れる凡庸」だろう。本人は「わかってやってるよ」というサインを散りばめているが、浅いところで空回りしている。例えば本作の見せ場である「錯文」&「語り」パートの寒さを考えるとかなり頭が痛くなる。こういう手法や身体性なんて「いかにも」なテーマ設定自体が悪いとは言わない。でも本当に「トパーズもの」(笑)を書き続けることが彼女の資質にあっているのかはかなり疑問。反面、主人公とその恋人の婚約者が対峙するシーンや、街に出たときの描写、プロット運びは今までの中で一番巧く、なかなか読ませる。変化球を投げるほどこの人はベタベタになるのだから、次は直球勝負でいい。
★★★★★ (5点)
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by wakusei2ndnews | 2005-10-15 15:35 | novel